第三話 The Third Story「チャックまのチャック」

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なんで“チャックま”のチャックだけ色々なものがでてくるのかな?
それは昔々、“チャックま”が子供の頃のある出来事から始まったんだよ。

いつも通り、“チャックま”たちは外で遊んでいました。
今日は竹林からちょっとだけ竹をもらって、竹とんぼ作りに挑戦です。
“チャックま”がお腹からナイフを取り出して、みんなで竹を削って、竹とんぼをつくりました。

ちょっと前まではコグマは怖がってナイフを使いませんでした。
でも今ではナイフの使い方もすっかり馴れて、うまく削っています。
「ジッパンダはまたタケ、タべちゃったの?」
お話しをしながら手元をちゃんと見て、竹の羽根を削ります。

「コグマはナイフの使い方がずいぶん上手くなったねぇ…」
チャックまが感心してコグマに言いました。
「チャックまがいっぱいおしえてくれたおかげだよ〜」
コグマがちょっと照れたように返事をしました。

子供のコグマは、前は出来なかった事が、最近いっぱい出来るようになってきました。
ナイフも使えるようになったし、力が付いてきて水汲みもできます。
前は怖がっていた岩から岩へのジャンプも、もうお手の物です。

コグマは姿こそあまり変わりませんが、チャックまと出会ってからの何年かでずいぶん成長したんですね。

「子供の成長は早いなぁ…」
チャックまが呟くと、ジッパンダが
「おまえが子供の頃は成長が遅かったな」
と突っ込みを入れてきました。続けて
「まぁ、おまえの場合はそのチャックの事件があったからな」
と意味深なことを言います。

「何の事件なの?」
コグマが訊きます。
「オレも詳しく聞きたいニャー」
ファスニャンも言いました。

そこでチャックまは話し出しました。
「それはボクがコグマくらいの歳の頃、起こったんだよねぇ…」

チャックまはチャック界から来たチャック族です。
だから子供の頃はもちろんチャック界に住んでいました。
お父さん、お母さん、そしてお爺さんと一緒に住んでいたのです。

引っ込み思案だったチャックまはなかなか友だちが出来ませんでした。
ある日、お父さんが釣りに出掛けるというのでついて行くと、お父さんの友だちのジッパパンダ親子も一緒でした。
そのジッパパンダの子供は、チャックまと同じ年頃のジッパンダだったのです。

ジッパンダは子供の頃からしっかりしていて…というか、どうもしっかりし過ぎていて逆に友だちがいませんでした。
でもお父さんのジッパパンダのやる事に何でも興味を持ち、色んなものにチャレンジしてはお父さんがビックリするくらい早く上手くなりました。
お陰で同じ年頃の友だちがいない事に悩んだ事はありませんでした。

四人は並んで湖のほとりで釣りを始めました。
一番釣ったのはジッパンダでした。
チャックまのお父さんが驚くくらいの釣り名人だったんです。
ところが同じ年頃のチャックまはというと、全然、一匹も釣れませんでした。

あまりにも釣れないので、ジッパンダはチャックまに釣りを教えることにしました。
ただ内容は…釣りとは何か、から始まったのです。
まるで先生のように、釣りの歴史から始まって現在の釣りの機材にいたるまで話すもんだから、気付けばジッパパンダもチャックまのお父さんも寝ていました。

でもチャックまはその話をよーく聞いていたのです。
「ジッパンダは何でも知ってるねぇ、すごいねぇ」
チャックまは言いました。

ジッパンダにとっては、煙たがられたり話の途中で止められたり、挙げ句の果ては喧嘩になったりするのがいつもの事でした。
こんな風にちゃんと聞いてくれる人に出会ったのは初めてだったのです。
ちゃんと話を聞いてもらうのがこんなに嬉しいという事を、ジッパンダは初めて知りました。

そこでジッパンダは話が終わると、チャックまに手を差し伸べてこう言いました。
「今日から僕とチャックま君は友だちになろうじゃないか」
ずいぶん堅い申し出でしたが、お互い友だちがいないもの同士だったので、どうやって友だちになるのが普通なのか、全く知らなかったんですね。

何はともあれ、二人はお互いに生まれて初めての友だちになったのです。

それから二人は毎日一緒に遊ぶようになりました。
ジッパンダは何でも知っていて、何でも上手くやってしまいます。
それに対してチャックまは、引っ込み思案が祟って何も知らず、何も上手くできませんでした。
お陰で二人の遊びは、まずジッパンダが遊び方を教えて実践して、チャックまも一緒にやってみる、といった不思議なものでした。

でも意外にもその遊び方は、どちらにとっても楽しかったのです。
ジッパンダは他の人に教えるのが嬉しくて楽しかったし、チャックまは知らない事を知って行くのが楽しかったのです。

ある日、二人はいつものようにチャックの森の中で遊んでいました。
チャックの森には野生のチャックの樹がたくさん生えています。
そのたくさんのチャックの樹で、二人はチャック滑りをしていました。

チャックまは、樹に登って一回滑っては次の樹へと登る、というやり方で、それでもずいぶん楽しそうでした。
ジッパンダは一回滑り出すと、その勢いを上手く使って次のチャックに飛び移り、3〜4回続けて滑っています。
今日のジッパンダは調子がいいらしく、
「よし、どれだけ続けられるかやってみるね」
とチャックまに宣言すると、連続して10本チャック滑りをしました。

「すごいねぇ…」とチャックまが言うとジッパンダも
「10回はチャック界新記録だな!」
と興奮したように言いました。

「10回続けるなんて、スゴいニャー!」
話を聞いていたファスニャンも興奮して言いました。
「ファスニャン、話の腰を折っちゃダメ」
ジッパンダが注意しました。
「それから、それから?」
コグマが先を聞きたがりました。
チャックまが再び話し始めました。
「ここからが本題だからね…」

ジッパンダが
「今日は鎮守の森のチャック杉でも滑り降りられそうな気がする!」
と言いました。
「えーと…あそこの杉は子供はさわっちゃダメなんじゃないの?…」
とチャックまが言いました。
「大丈夫だよ、僕はヘタな大人よりよっぽど何でも上手くできるから!」
ジッパンダは言うと、チャックまを引きずるように鎮守の森へと走って行きました。

鎮守の森───
それは、大人しか出入りしてはいけない、チャック界の一番端の小高い丘に位置するうっそうとした森でした。
森に生えているチャックの樹は、それぞれも他の森の樹を圧倒する大きさです。
そしてその一番奥に位置している通称チャック杉たるや、もう空に突き刺さっているのかと思う程の大きさなのです。

この森の入口には鳥居があり、そこから先は子供は入ってはいけない決まりでした。
しかしジッパンダは、ジッパパンダが入って行く時にこっそりついていった事があったのです。
そしてひと目、チャック杉を見たときから、いつかこの巨大な樹をチャック滑りしてやろうと考えていたのでした。

ジッパンダとチャックまは、鳥居の前で辺りを見渡して誰もいない事を確認すると、鎮守の森へと入って行きました。
昼間だというのに鎮守の森の中は、うっそうと茂るチャックの樹に陽の光が遮られて薄暗く、なんだか怖いくらいでした。
その中をジッパンダは堂々と、チャックまは恐る恐る、奥へ奥へと歩いて行きます。
そしてついに、大きな大きなチャック杉に辿り着きました。

「お、大きいねぇ…」
チャックまは、首がもげるんじゃないかと思うくらい上を向いて呟きました。
何しろ、まっすぐ立っているのに見上げるとこちらに倒れてきそうに見えて、上の方は雲に覆われていて見えない程なのです。
そして、そのチャックの巨大さたるや、チャックまの想像を遥かに超えていました。
チャックの横幅はチャックまのお父さんの背の高さよりも大きそうなのです。

チャックまは考えました。
「こんなに大きなチャックを滑れるものかしら…」
チャックの取っ手に乗っかっても、動きそうに見えない大きさですからね。

でも当のジッパンダは、目をキラキラさせてチャック杉を見上げて言いました。
「よし、行って来るね!」

ジッパンダは大きいチャックに手をかけると、するすると登り出しました。
『さて、どこまで登ろうか』
チャック杉は高いので、てっぺんまで登ろうと思ったら一日では済まなそうです。
『よし、とにかくチャック界が全部見渡せるくらいまで登ろう!』
そう思ったジッパンダは、子供ならではの身軽さでどんどん登って行きます。

残ったチャックまはジッパンダが登って小さくなって行くのをただただ眺めていました。
そして、その姿があまりにも米粒みたいに小さくなって行くのを見ていたら、全く恐ろしくなりました。
「ジッパンダ!落っこちないようにね!…」
元々声が小さいチャックまにしては頑張って大きい声で叫びました。

ジッパンダにその声は大して聞こえませんでしたが、それでも何かが聞こえた気がして止まりました。
そして周りを見渡すと、それはそれは絶景でした。
さっきチャック滑りをしていた森が見えました。
その先にはジッパンダの家が見えます。
そしてチャック族の村が見え、その中にはチャックまの家もありました。
さらにその先には、この前釣りに行った沼が見えます。

『こりゃスゴいぞ。こんな所まで登った人は、きっと今まで誰もいなかったに違いない』
そう思うとジッパンダは、自分が誇らしいような、ちょっと気恥ずかしいような、そんな気持ちになりました。
『よし、滑ろう!』

チャックまからはジッパンダの姿は小さ過ぎて、何をしているのかよく見えなかったのですが、いよいよ滑り出した事は分かりました。
葉っぱ一枚、また一枚と、チャックの取っ手に乗って滑り降りてきます。
最初は慎重に滑っているようでした。
ところが滑っているうちに、だんだんスピードが上がってきました。
まだ半分も滑っていないのに、普段のチャック滑りの何倍もスピードが出て、ジッパンダの姿勢が崩れてきました。
チャックの取っ手に乗っているはずなのに、なんだか引きずられているように見えています。
「ジッパンダ、大丈夫かな……」
チャックまはどんどん心配になってきました。

ジッパンダは、生まれてこの方、こんなに恐怖を感じた事はありませんでした。
もう取っ手にしがみついているのが精一杯で、何かの拍子に葉っぱが揺れたら放り出されて地上まで真っ逆さまに落ちて行きそうです。
もうジッパンダはただただチャックの取っ手にしがみつき、タイミングを見計らって次の取っ手に飛び乗ることだけしか考えられなくなりました。

チャックまの心配は限界にきて、もうジッパンダを見ていられない程になっていました。
それでもジッパンダの姿がだいぶ大きく見えてきたので、少しずつ落ち着いて見ていられるようになって来たのです。

ジッパンダも地上が、そしてチャックまが大きく見えてきて、何とか乗り切れそうな気になってきました。

その時でした。
ジッパンダがいよいよ最後の一番大きな葉っぱに飛び移ろうとした時、気の弛みなのか、それともずっとしがみついていたので手が痺れてしまったのでしょうか。
大きな取っ手に飛び乗ろうとしたジッパンダの身体がマトモにその取っ手にぶつかってしまいました。
反動でジッパンダの身体は宙に舞い、逆に取っ手は動き出してチャックが開いて行きました。

そして、何という偶然か、ジッパンダの身体はその開いたチャックの中へとすっぽり入ってしまったのです。

一瞬チャックまは何が起きたのか分からず呆然としてしまいました。
次の瞬間、大慌てで開き切ってしまった大きなチャックに登り、中を覗き込み叫びました。
「ジッパンダーーーーーー!」

普通のチャックの樹のチャックなら、開いた所を覗き込んでも、裏側が見えるだけです。
ところがチャック杉のチャックはそうではありませんでした。
覗き込んだチャックまが見た光景は、想像を絶するものでした。

角が生えた真っ黒くて怖そうなものたちが何十人何百人とコウモリみたいな羽根を使って悠々と飛んでいました。
周りも真っ暗で、どんな世界なのか見渡せません。
どうやら別の世界と繋がっていて、その世界を覗き込んでいるようです。
その恐ろしい光景を見て、チャックまは恐ろしくて恐ろしくて膝はガクガク、目からは涙が流れてきました。

しかし黒いものが集まっているところをよく見ると、落ちてしまったジッパンダがそいつらに囲まれているではありませんか。
ジッパンダは落ちたショックで気を失っているようです。

それを見てチャックまは、怖さも忘れて思わず自分もその世界に飛び込みました。
ジッパンダの近くに着地して、声を掛けます。
「ジッパンダ、起きてー!」
ジッパンダは目を覚ますと、二人で慌てて開いたチャックから戻ろうとします。

ところがその二人を、物珍しそうに黒いものたちがついて来るではありませんか!
チャック界にこんな怪しいやつらを入れさせるわけにはいきません。
チャックまとジッパンダは力を合わせて、大きなチャックを閉めて行きました。
しかしギリギリ間に合いそうもありません。

その時、何を思ったのか、チャックまはチャックを開き、大きなチャックの閉まり切っていない部分を自分のチャックで塞いだのです。
するとその黒いヤツらの何十人かがチャックまのチャックの中に飛び込んで行きました。
そうしているうちに何とか大きなチャックをキッチリと閉める事が出来たのです。

「大丈夫?」
チャックまはジッパンダに言いました。
「ちょっと頭にコブが出来たけど大丈夫。きみこそ大丈夫だった?」
ジッパンダはチャックまのおなかのチャックを見ながら言いました。
「どうかなー…」
二人は恐る恐るチャックまのおなかのチャックを開き、中を覗き込みました。

不思議な事に、中には何もいませんでした。
「何だったんだろうね…」
二人には分かりませんでしたが、取りあえず何とかなったとホッとした気持ちになりました。

ジッパンダはチャックまを見て、言いました。
「…今日はゴメンな。オレ、ちょっと調子に乗り過ぎたみたいだ。チャックまが助けてくれなかったらどうなっていたか」
そう言うと黒い世界を思い出したのか、ジッパンダはブルッと震えました。
「ボクも必死で、なんであんな事できたのかよく分からないけど…とにかくジッパンダが無事で良かった……」
チャックまはそう答えると、二人はしばらく呆然とチャック杉を見上げていました。
「この話は大人たちにはナイショにしておこう」
「そうだね……」

後から二人が聞いた所に寄るとチャック杉は、チャック界と他の世界とを行き来するための出入り口だったのです。
開く前に行きたい世界をしっかりと心に思い描き、チャックを開くとその世界に行く事ができます。
中途半端な気持ちで開くととんでもない所に繋がってしまうのだそうです。
今回は、ジッパンダの恐怖とチャックまの心配に反応したチャック杉が、あんな世界に繋いでしまったのかもしれませんね。

翌日、また二人は集まりました。
昨日の“事件”のことを話し合いながらチャックの樹の森へと向かう二人。
「おなか減ったなぁ…」
ジッパンダが言うとチャックまが
「朝ご飯食べたばっかりじゃないの?…」
と答えました。
「言われるとボクもおなか減って来ちゃった…リンゴとか食べたくない?」
二人は笑い合いました。
事件を通じて、二人はまた仲良くなったみたいです。

ところがそんな話をしている最中、チャックまは樹の根っこにつまずいて転んでしまいました。
その拍子にチャックが開くと、中からたくさんのリンゴがゴロゴロ出て来たではありませんか!
二人は唖然としてその転がって行くリンゴたちを見ていました。
これがチャックまのおなかのチャックから色々なものが出て来るようになった、最初でした。

「結局それからボクのおなかのチャックは、一生懸命念じると思ったものが出て来るし、
いい加減に思うとよく分からないものが出て来るようになったんだよ…みんなが知っているようにね…」
チャックまが話し終えました。

「こわいね、こわいねー、でもジッパンダはスゴいし、チャックまはエライねー!でも…ファスニャンが出て来ないのは何でなの?」
コグマが訊きました。
「それは次回のお楽しみだニャー」
ファスニャンはニヤニヤしながら応えました。

「さぁ、竹とんぼを飛ばしに行くニャー!」
四人はそれぞれが自分でつくった竹とんぼを空高く飛ばしました。
コグマのつくった竹とんぼはずいぶんよく飛びました。
チャックまやファスニャンのよりも、です。

ジッパンダは自分の竹とんぼを飛ばしませんでしたが、大喜びのコグマは気付きません。
でもチャックまは、ジッパンダを見てにっこりしたのでした。

終わり
(朗読:約30分)

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